Lester YougとColeman Hawkinsはよく比較されます。カンサスシティJazzの本でもLester YoungについてHawkinsとの対比で書かれています。大体大味テナーのHawkinsと繊細で緻密なソロイストとしてのLester Youngという対比と一緒に、オールドスタイルのHawkinsと闘って勝った「たくましいテナー」のLester Youngという人物像もあります。この人間像はどう考えても矛盾しているのですよね。実はこの矛盾した記述がこのRoss Russelの本でもされていました。この一般に知られている矛盾した人間像と逸話の元はこの本だったのではないかなと思えてなりません。
Russelの著作は全20章に分かれており、各々の章でミュージシャン、バンド、世情、ラグタイムの歴史に、Bluesの歴史、JamSessionの歴史、等がそれぞれ独立して別個の章に書かれています。別個に書かれているので、年代順に記事を並べて比較すると、どうも矛盾した記述があったりするのですが、この中に有名なLester対Hawkinsのテナーバトルの事も書いてあります。
Russelの著作のズルい処は、流し読みをすると、とある大天才が世の中ひっくり返して次の日から天下を取った「印象を受ける様に」書かれているけれど、本当はそうでなく、細かい処に事実を隠して全体を読みづらくしている点です。細部まできちんと読まないといけません。Russelの著作が原因で世の中に誤解が広がっているいるものと思われます。
時代は1934年初頭、一日だけカンサスに巡業に来たFlecher Henderson楽団のHawkinsがチェリーブロッサムというクラブで地元の腕利きと腕比べのJam Sessionを行いました。Jamが何時くらいから始まったのか、記載されていませんが、朝の4時にリズムセクションがへたばって足らなくなったので手伝ってくれと、当時のピアノ、メアリー・ルー・ウィリアムズが寝ているところを叩き起こされた話しが実際の彼女のインタビューとして書かれています。そこではHawkinsは最後まで吹き続けていたけれど当日に公演があるので朝の早い時間に引き上げたと、あります。この時点でオールドスタイルのテナーの時代が終わってHawkinsは失業してLesterの天下になったかの様に思われている様ですが、当時の話しを良く読むと、2人とも互角だったけれど時間切れでHawkinsは帰ってしまってLesterの優勢勝ちというのが真相の様です。ここでHawkinsが大ハジかいて笑い者になってリタイアしたように思われている様ですが、これまた大ウソ。同1934年、HawkinsがFletcher楽団を一時離れてヨーロッパ遠征している間にHawkinsの代わりにFletcherの楽団に推薦されたて少しの間だけ参加した事があります。ただ、スタイルが違いすぎるのですぐに辞めてカンサスに帰って来てしまったと同じくRusselの本に書いてあります。この記述から判断されるのは当時として新しいスタイルが生まれてその事が認められた、敵対するわけではく存在していたという事でどちらかがどちらかを駆逐したとかいう話しでは全くありません。
RusselはLesterひいきなのでHawkinsを比較してフレーズが断片的だとか垂直的だとか古いスタイルを変えなかったのでダメなのだ、とさかんに主張してLesterを勝ち組に仕立てたい様です。が、この後も両方とも同じく活動して後継者もいて、長く活動したのはHawkinsで先にヘタってしまったのはLesterだし、両者優劣付けられないのが歴史が示す事実です。Modern擁護派なので本当は繊細なアーティストであるLester Youngを時代の変革者「強者Lester」にしておきたい様で、その辺が矛盾した人物像が描かれる理由だと考えられます。そもそも音楽に勝ち負けなど、どうでも良くて、どんなスタイルにも均等に良い悪いがあるだけ、というシンプルなメンタリティを持っていられないのがModern Jazzの批評家やリスナー/プレイヤーらしいですね。
文責:ためすけ後藤
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